■植物にとって鉄とは?鉄は、植物が葉緑素を生成するために必要な要素で、不足すると光合成がうまく行えず、生育が著しく悪化します。そのため鉄は、窒素やリンほど多量ではないものの、植物の成長に欠かせない重要な栄養素の一つです。■植物は鉄をどう取り込むのか鉄は他の物質と結びついて沈殿しやすく、土壌中では水にほとんど溶けない形で存在しています。このままでは植物は利用できないため、根から有機酸やフェノール類といった有機物質を分泌し、鉄を包み込んで水に溶ける状態にします。この仕組みを「キレート」と呼びます。肥料としてキレート鉄を与えると、この「溶けやすい形にする」過程をあらかじめ済ませた状態で鉄を供給できるため、植物はより効率よく吸収できます。近年、農業誌やYouTubeなどで紹介されることが増えている「タンニン鉄」も、こうしたキレート鉄の一種です。■植物が編み出した鉄吸収戦略植物に鉄を運ぶ役割を終えたキレートは、そのまま土壌中に残ります。肥料として使われるキレート剤にはさまざまな種類がありますが、合成キレート剤として知られるEDTAは分解されにくく、長期間残存して重金属を溶出させる可能性が指摘されています。一方、タンニンは植物自身が生成するポリフェノールの一種で、土壌中では微生物によって比較的分解されやすい物質です。そのため、使用後に環境中へ蓄積しにくい、より環境にやさしいキレート剤といえます。ただし、タンニンは単一の物質ではなく、構造の異なる化合物の総称であるため性状にばらつきがあります。また、タンニン鉄は黒色を呈することから、定量性や透明度が求められる培養・実験用途には適していません。それでも、家庭園芸で使用する程度であれば比較的簡単に調製でき、環境への負荷を抑えた鉄供給法の一つとして試してみる価値はあるでしょう。■最後に…微量でありながら、光合成の成否を左右する「鉄」。そして、それを陰で支えるキレートという仕組み。植物は、吸収しにくい鉄を利用するために、根の周りで鉄を包み込むキレートという仕組みを発達させてきました。これからは「植物に効くか」だけでなく、「土に何が残るか」まで考える時代なのかもしれません。