【月一小話 植物の小ネタ バックナンバー】

2024年3月

*桜危機??桜に訪れている現状と私たちにできること

 

徐々に厳しい寒さも和らぎ、少しずつ春の陽気を感じられるようになりました。休日に川沿いを散歩していた時に、樹齢を重ねた太い立派なソメイヨシノがまず目につきました。

一方で、新しく植樹されたのか、若い木も多くあることに気づきました。最初は、ソメイヨシノの若木かと思いましたが、木につけられたネームタグを見ると「ジンダイアケボノ」と記載がありました。気になって調べてみると、近年、ソメイヨシノの代木として、徐々に切り替えられ普及しはじめているようです。

 

どうして「ジンダイアケボノ」という品種がソメイヨシノの代木になってきているのか、その経緯と現状について今回ご紹介させていただきます。

 

まずはじめに、桜はバラ科の植物で世界に約100種ほどの野生種があると言われています。日本で見られる代表的な桜は、ソメイヨシノ、エドヒガンザクラ、ヤマザクラ、ジンダイアケボノ、河津桜などがあります。現状、全国の桜の約80%がソメイヨシノと言われています。

全国に広く分布するソメイヨシノですが、じつは「てんぐ巣病」という病気にとても弱い品種になり、昨今までの樹体の高齢化も相まって近い将来絶滅するのではないかと不安視されています。

「てんぐ巣病」は、子嚢菌類のタフリナ・ウィースネリ(Taphrina wiesneri)によって引き起こされることが明らかにされています。感染すると多数の分枝が出て、竹ぼうき状になったり、小葉がたくさん発生するといった症状が出ます。また花芽がつかなくなり、樹勢が衰え枯死することも。さらに感染した枝を放置しておくと、病原菌の胞子が空気中に飛散し、蔓延していくという恐ろしい病気です。

「てんぐ巣病」は、糸状菌が要因の病気であるため、湿気があり、日当たりや風通しの悪い場所で多く発生します。例えば、川沿いや湖の周辺、山間部の霧のかかりやすい場所、また植栽間隔が狭く密集した場所などが該当します。ソメイヨシノは桜の種類の中では特に生育が早いため、植栽間隔が狭いと、すぐに密集状態になってしまい、病気になりやすい環境になりやすくなってしまうのです。

 

このような状況の中、病気に弱いソメイヨシノに代わる救世主として「ジンダイアケボノ」と「コマツオトメ」という2つの品種が新しく植樹する品種として推奨されています。理由は、両品種とも「てんぐ巣病に強い」、「ソメイヨシノとほぼ同時期に開花する」、「樹形もほぼ一緒」などが理由です。花色はやや赤みが強くなりますが、一見すると違いがよく分からないため、違和感なく楽しめるそうです。

今後、ボランティア活動などで、現存するソメイヨシノのメンテナンスをしっかり行ったり、病気に強い品種を植樹するなど、できることから少しずつ始めて病気の蔓延を抑えつつ、何とか春を感じる桜のお花見ができる年を少しでも延ばしていきたいですね。

 

(参考文献)

・山本 歩(2007)

サクラてんぐ巣病の防除法の確立をめざしてこれまでの知見と今後の展望一 樹木医学研究 第11巻 3号

・神代花だより(令和5年3月) No.330

 

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